お客様との営業トークに注意。消費者契約法の改正

今年6月15日(土)から、消費者契約法の一部改正が施行されます。
法律全体としては小さな改正ですが、個人のお客様を相手とした営業活動を行っている企業にとっては、現場の営業トークで気をつけないといけない場面が増えたため、それなりに影響のある改正となりました。軽やかな営業トークを繰り広げた結果として、契約取消になってしまったという事態が起きないよう、会社全体として気をつけましょう。

■ 営業トークに影響がありそうな改正項目
消費者契約法の改正のうち、営業トークに特に影響がありそうな改正として、以下の2点を紹介します。

(1)社会生活上の経験が乏しいことによる不安をあおる告知
この規制は、社会生活上の経験が乏しいことによって、進学、就職、結婚、生計、容姿、体型等についての過大な不安を抱いている消費者に対し、その不安をあおって、正当な理由がないのに、願望実現のためには契約締結が必要である旨を告げて契約を締結したような場合、その契約を取り消せるとするものです。
具体的には、「この講義を受講しないと絶対合格できません。」「このエステコースに申し込まないとこれ以上の体重減量は無理です。」などと顧客の不安をあおった上で契約を締結することが規制されます。

(2)加齢等による判断力の著しい低下による不安をあおる告知
これは、加齢や心身の故障によりその判断能力が著しく低下していることから現在の生活の維持に過大な不安を抱いている消費者に対し、その不安をあおり、正当な理由がないのに、契約を締結しないと現在の生活の維持が困難であることを告げて契約を締結した場合、その契約を取り消せるとするものです。
具体的には、主として高齢者や障がい者など将来への生活不安を抱いている消費者に対し、「このサービスに加入しておかないと、すぐに老後の生活が行き詰まってしまいますよ。」などと顧客の生活不安をあおった上で契約を締結することが規制されます。

■ どのような営業トークをすべき?
今回このような規制が設けられましたが、消費者の現状を客観的に分析した上で、それを改善するのに適した商品を勧めること自体は、決して不当な営業活動ではありません。例えば、現在合格水準に至っていない受験生に対し、その事実を伝えた上で効果的な学習教材を勧めることや、今後の生活の不安を抱えた高齢者に対し、その不安に共感した上で安心できる金融サービスを紹介することなどは、正当な営業活動といえるでしょう。今回の規制では、正当な営業活動と、規制される営業活動との境目が難しいのが実際です。
(そのため、法律でも「困惑し」「過大な不安」「正当な理由がある場合でないのに」「不安をあおり」など、取消しの要件を絞ることにより、正当な営業活動が過重に制限されないように配慮がされています。)

そこで、営業活動の方針としては、顧客の不安に着目するのではなく、自社商品のメリットに着目するのが安全かと思われます。契約締結を勧めるための営業トークにおいて、「契約をしないと願望が実現できない(不安が解消されない)。」というマイナス面がメインになっていないかに気をつけましょう。「契約をすればこの部分が改善でき、願望の実現に資する(不安が解消できる)。」という具体的なプラス面をメインに挙げたトークをするよう意識すると良いでしょう。
言葉のあやのような話ですが、「不安だから契約した」のと「願望の実現に近づきたいから契約した」のでは、ちょっとの違いのようで大きな違いです。営業トークにおいては、この点に注意しましょう。

■ 会社としての対策
このように、今回の改正では、同じ契約を締結した場合でも、その営業トークの内容によって、契約取消の可能性が変わってきますので、注意する必要があります。
もっとも、この点を各営業担当者の個人的注意に任せるのは、企業のリスク管理としては妥当とはいえません。社内マニュアルや研修を通じて、好ましい営業トーク例集、好ましくない営業トーク例集等を蓄積し、適切な営業活動がされるよう、組織全体として体制を整えておきましょう。
消費者契約法では、今回の改正事項以外にも、営業時における規制が多数ありますので、場合によっては、チェックリスト形式の説明事項書等を用いて、お客様と内容の確認を行うことも有効な方法かもしれません。

今回の消費者契約法の改正では、他にも、例えば「当社が負う損害賠償は、お客様が支払った金額を上限とします。」といった条項が無効とされたり、契約解除事由として定める「お客様が後見開始の審判を受けたとき」といった条項が無効とされたりするなど、場合によっては、契約書の記載を見直す必要が出てくる可能性がある改正項目もあります。
当事務所では、契約書のチェック業務も行っています。自社の営業方針や契約書内容の法適合性についてチェックを希望する企業様におかれましては、是非お気軽にお問い合わせください。

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