同一労働同一賃金とは

「同一労働同一賃金」とは、同一の仕事に従事する労働者は皆、同一水準の賃金が支払われるべきとの考え方です。この考え方は、我が国では、一般的に(1)「不合理な労働条件(待遇)の禁止」及び(2)「差別的取り扱いの禁止」と解され、具体的には以下のように理解されています。

①職務内容や職務内容・配置の変更の範囲と直接関連しない給付(交通費など)は、原則として同一の扱い(均等待遇)にすること。

②職務内容や職務内容・配置の変更の範囲と関連性を持つ給付(職務給・職能給など)は、前提となる職務内容(業務内容+責任の程度)や職務内容・配置の変更に違いがある場合には、その前提の違いに対してバランスを欠く(均衡を失する)相違があるときには、不合理なので違法になります(均衡待遇)が、不合理でなければ異なる待遇も可能になります。

※職務給 業務の種類(営業職・事務職等)と成果に基づき定められた給与。主に米国で取り入れられている制度。

※職能給 年齢や勤続年数に応じて自動的に職能の等級が上がっていく傾向が強い賃金制度。年功序列的。

厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」(厚生労働省告示第430号)「第1 目的」によれば、「同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消並びに派遣先に雇用される通常の労働者と派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消」としていますが、このガイドラインも均等待遇と均衡待遇の考え方に基づいています。

当初は男女同一賃金の原則の整備が中心だった

同一労働同一賃金の考え方は、第一次世界大戦後のベルサイユ条約において、「同一価値の労働に対しては男女同額の報酬を受くべき原則」が定められてから、条約や日本国憲法の平等原則に基づき、労働基準法でも均等待遇及び男女同一賃金の原則が定められました。

そのため、かつては男女同一賃金の法制度整備が重視されてきました

正規・非正規労働者間の待遇格差是正に向けた法整備

男女雇用平等法制が整備されたものの、バブル崩壊後、雇用形態の多様化(契約社員・派遣社員の増加)が進んだため、雇用形態により労働者の待遇・雇用の安定性に関する格差が生じ、固定化する傾向が出てきました。そのため、非正規労働者は、正規雇用者のように地位が保証されず、一般的には待遇・賃金を低く抑えられ、正規・非正規間の待遇面での格差がついてしまい、実質的に同一労働同一賃金が実現されていない状況になりました。

この格差を是正すべく、平成19年に制定された労働契約法20条では、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない)を定めました。

さらに平成27年、「同一労働同一賃金推進法」(正式名称「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」)が制定されました。

同年、パートタイム労働法(正式名称「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)も改正され、パートタイム労働者の賃金のうち、基本給、賞与、役付手当など職務の内容に密接に関連する賃金(職務関連賃金)の決定方法について、事業主は、通常の労働者との均衡を考慮し、パートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、能力、経験などを勘案して賃金を決定することが努力義務化されました(9条1項)。

通常の労働者と比較して、パートタイム労働者の職務の内容と一定の期間の人材活用の仕組みや運用などが同じ場合、その期間について、賃金を通常の労働者と同一の方法で決定することが努力義務化されました(9条2項)。

こうした経緯もあり、最近、政府(厚生労働省)は、正規・非正規労働者間の格差是正に取り組んでいます。  

正規・非正規労働者間の賃金格差の裁判例

(1)パートタイム労働者と正規労働者との賃金格差

「丸子警報器事件」(長野地裁上田支部平成8年3月15日判決)において、同一労働同一賃金の原則は実定法上の根拠はないが、労働基準法3・4条の根底にある均等待遇の理念が公序になっているとして、臨時社員の賃金が同じ仕事に従事する同じ勤続年数の女性正社員の8割以下になるときには、均等待遇の公序に違反する、と判断されました。

 

(2)正社員と契約社員との賃金等格差について

平成30年6月1日、最高裁は、非正規社員(契約社員・嘱託社員)と正規社員(正社員)との間の手当支給に関する格差は、労働契約法20条違反があると判断しました(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件)。

 

ハマキョウレックス事件最高裁判決は、正社員と契約社員との間で無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当の支給につき格差を設けることは、期間の定めがあることによる不合理な相違であるとしました。(これに対し、住宅手当は「正社員のみが転居を伴う配転を予定していること」から、支給の相違に格差があっても不合理ではないとされました。)

長澤運輸事件最高裁判決は、定年退職後再雇用された有期契約社員(嘱託社員)が正社員(無期契約社員)と比べて3割程度低い賃金であることは許容されました。

最高裁は、本件の場合、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく、業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはない、とした上で、

多くの企業では定年後再雇用の場合は、3割程度下げられていること、高年者雇用安定法に基づき義務づけられた高年齢者雇用確保措置として再雇用されている点を考慮し、定年後の嘱託社員が正社員の給与より低くても許容されるものとしました。

他方、精勤手当の不支給、時間外手当・超勤手当の取り扱いに差異を設けることについては、労働契約法20条違反であるとされました。

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