企業組合の組合員の労働者性(東京高裁令和元年6月4日判決)

事案の概要

本件は、Y組合のもとで荷物配達業務に従事していたXが、Y組合に対し、自らは労働者であると主張して、労基法37条1項に基づく未払割増賃金等の支払いを求めた事案である。

 

当事者

Xは、平成18年11月頃から出資金5万円を払い込んで、Y組合のメンバー(組合員)となった者である。

Y組合は、一般貨物自動車運送事業等を目的として、中企協法3条4号に基づいて設立された企業組合であり、Aから委託を受けて、食材等の商品をAの顧客の自宅まで配達する業務を行っていた。

 

争点

Xが労基法9条の「労働者」に該当するか。

 

判旨

⑴ 判断基準

労基法9条は、その適用対象である「労働者」を「事業又は事務所に使用され る者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しているから、「労働者」であるか否かについては、「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態(①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③拘束性の有無)及び「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうかということによって判断すべきと解される(「使用従属性」の判断)。

もっとも、現実には、指揮監督の程度及び態様の多様性、報酬の性格の不明確さ等から、「指揮監督下の労働」であるか、「賃金支払」が行われているかということが明確性を欠き、これらの基準によって「労働者性」を判断することが困難な場合もあるが、このような限界的事例については、「使用従属性」の有無を判断するにあたり、事業者性の有無や報酬の額等の諸要素をも考慮して、「労働者性」の有無を総合判断すべきである。

Yはワーカーズ・コレクティブではあるが、その一事をもって当然に組合員の「労働者性」は否定されず、使用従属性の判断に加え、事業者性の有無等についても慎重に検討の上、その「労働者性」を判断する必要がある。

⑵ 判断

  • 仕事の依頼、業務従事の指示等に対しての諾否の自由について

Xに仕事の依頼に対する諾否の自由がなかったということはできない。

  • 業務遂行上の指揮監督の有無について

Y組合は、Aから顧客に同じ時間帯に配達を行うことを求められていたため、決められた配達ルートに沿って配達することは合理的であるし、各メンバーにおいて自由に寄り道をすることもできた。

そして、メンバーは、運転に関する基準を遵守して配送業務に当たることが求められていたことが認められるものの、同基準による配達時の運転方法の指定は、トラックの安全運転のためのものであると認められる。

したがって、これらの指示があったことをもって、Y組合から業務内容に対する指示があったと評価することはできない。

  • 報酬の労務対価性について

Xは、配達コースは労務提供時間をも考慮して割り振られ、配達時間を考慮して持ち上げ手当やマンション手当も支給されていたから、メンバーの報酬は、Y組合の指揮監督の下にメンバーが一定時間労務を提供していることの対価としての性質を有していたと主張するが、メンバー間の公平を図るために、Xの主張するような措置が講じられていたことは、報酬が労働の対価であったことと特段結びつくものではない。

  • 労働者性の判断を補強するその他の要素について

中企協法上及び定款上、理事、理事長、理事会の権限が定められ、理事長がY組合を代表することや、Y組合の業務執行権限が理事会に与えられている。しかしながら、個々のメンバーが組合の業務執行に対して意思決定できる機会はほとんどないか非常に制限されている状態であると認めることはできず、また、かかる中企協法及び定款の定めがあることにより、各メンバーの事業者性が否定されるものではない。

  • 結論

XらメンバーとY組合との間の関係は、各メンバーが拠出金と労働力を出資して共同して配送業を経営するという組合構成員の色彩が濃いもので、Y組合から業務に関する一定の指示ないし時間的拘束があることや、器具や経費を被告が負担し、Xが雇用保険の対象になっていることなどを踏まえても、原告に「労働者性」を肯定することはできない。

 

本判決について

本判決は、「企業組合」という法形式だけで労働者性の有無を判断せず、労働者性の判断基準を適用し、労働者性の有無を判断しました。

そして、業務に関する一定の指示ないし時間的拘束があることを認めつつも、上記のとおり述べ、「労働者性」を否定しました。

 

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