労災事案における使用者の対応

労災とは

労災(労働災害)とは、労働者が労務に従事したことによって被った死亡、負傷、疾病を言います。

 

労災補償制度

労働基準法は、「第8章災害補償」において、労働者が業務上負傷し、疾病にかかり、または死亡した場合に、使用者が行うべき補償について定めています。労働者災害補償保険法(労災保険法)は、労働基準法上の労災補償責任をカバーする労災保険制度を定めました。この労災保険制度によって、労働基準法上使用者が補償責任を負うべき労災補償の大部分がカバーされます。

つまり、労働基準法に規定する災害補償事由に関し、労災保険法に基づく保険給付が行われるべき場合には、使用者は、その限度で「補償の責を免れ」(労働基準法84条1項)、労災保険給付が支払われた価額の限度で損害賠償の責を免れる(同法84条2項)ことになります。

 

保険給付の内容

①療養補償給付診察、薬剤等の支給、手術、入院費など療養の給付です。

②休業補償給付療養のため、労働ができず賃金を受けない場合に、その療養のため休業の4日目から支給され、1日につき給付基礎日額の100分の60が支給されます。

③障害補償給付後遺障害に対する給付です。

④遺族補償給付死亡労働者の遺族に対する給付です。

⑤葬祭料死亡労働者の葬祭費用に対する給付です。

⑥傷病補償年金療養開始後1年6か月を経過しても治っていない場合で、1年6か月を経過した日の障害の程度が1級~3級の程度に達している場合、その状態が継続している間、支給されます。

⑦介護保障給付障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が、常時又は随時介護を要する状態にあり、かつ常時又は随時介護を受けているときに当該介護を受けている間の給付です。

 

労災保険の適用対象

労災保険は、原則として労働者を使用する全事業を適用事業とします。

 

過失の有無を問わないこと

労災保険給付は、使用者の過失の有無を問わず、支給されます。

労働者に過失があって労災事故が発生した場合にも支給されます。

ただし、労働者が、故意に負傷、疾病、障害、死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、保険給付は行われません(労災保険法12条の2の2)。

 

通勤災害に関する保険給付

労災保険法は、業務災害だけでなく、通勤途中の災害によって生じた負傷、疾病、障害、死亡も保険給付の対象としています。たとえば、通勤途上の交通事故、落下物による負傷などがこれにあたります。

 

保険給付の請求・決定・不服申立

保険給付は、被災労働者またはその遺族の請求により行われます。

支給または不支給の決定は、労働基準監督署長によって行われます。

この支給決定がなされてはじめて、被災労働者または遺族は政府に対し、具体的な保険給付の支払請求権を取得します。

決定に不服がある者は、各都道府県労働局内の労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求をし、その決定に不服がある者は、厚生労働省本省内の労働保険審査会に対し再審査請求をすることができます。

 

民法上の損害賠償請求との関係

⑴労災保険制度によって、労働基準法上使用者が補償責任を負うべき労災補償の大部分がカバーされることは上述しました。

しかし、労災保険では、休業補償が全額出るわけではなく、慰謝料や物損も補償対象となっていません。

そこで、被災労働者は、労災保険の請求とは別に、使用者に対し、民法上の損害賠償請求(民法709条、715条、717条、415条)を行うことができます。

⑵もっとも、労災保険制度で労災認定をする際には、使用者の故意・過失は要件となっていません。

そのため、労災認定がなされたとしても、使用者に故意・過失がなければ、使用者は、民法上の責任を免れることになります。

⑶使用者は、労働者に対し、労働契約に付随して、労働者の生命・身体等を危険から保護するよう配慮する義務を負っています(労働契約法5条)。

この安全配慮義務は、労働契約法5条が制定される前から、判例上、認められてきました。

安全配慮義務の内容は、個別具体的な事案ごとに検討することになりますが、労働基準法、労働安全衛生法等の順守状況は、一つの重要な指針となりえます。そのため、各業種や事案等に応じて、労働安全衛生法やガイドライン等の関係規定を確認することが求められます。

⑷使用者に不法行為責任または債務不履行責任が認められる場合でも、当該損害の発生にあたり労働者側に過失があった場合には、過失相殺による減額を行うことができます(民法418条、722条2項)。

 

労災問題は弁護士にご相談ください

これまで述べてきましたとおり、労災事故があったとしても、使用者が直ちに損害賠償義務を負うとは限らないうえ、使用者に責任が認められる場合でも損害賠償額を減額させることができる場合があります。

労働者が、損害賠償請求してくる場合、弁護士が代理人となる場合が多いですが、使用者が弁護士に依頼しないまま自ら対応しようとすると、思わぬ損害賠償額の支払いをせざるをえない場合が生じかねません。

労災等の問題が発生した場合には、すみやかに弁護士に相談することをお勧めします。

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