民法改正に対応した売買契約書の作成にあたり注意すべき点

民法(債権法)が約120年ぶりに改正され、一部の規定を除き、2020年4月1日より施行されます。

今回の改正では、判例通説を明文化したものだけではなく、従前のルールを変更したものもあるため、改正内容を踏まえて契約書を作成しなければ、取引に際して不利益を被るおそれがあります。

そこで、今回は、民法改正に対応した売買契約書の作成にあたって注意するポイントをご説明したいと思います。

 

目的規定の創設

改正民法では、債務不履行による損害賠償請求において、「契約及び取引上の社会通念に照らして」(改正民法415条1項、541条但書)という文言が使われており、瑕疵担保責任も、「契約の内容に適合し」たかどうかで判断されることになります(改正民法562条等参照)。

また、改正民法では、債務不履行をした債務者に催告をしても「契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」に、債権者は催告することなく解除をすることができるとされています(改正民法542条1項5号)。

このように、改正民法では、当事者の合意が重要な意味を有するとされており、契約の目的を契約書に記載しておくことで、損害賠償の範囲や契約不適合責任が、契約書の記載で確定され、予測可能性を担保することが可能となります。そのため、以下の観点から、契約書に契約の目的を記載することが考えられます。

✔︎目的物は性質上代替可能か

…目的規定において、目的物が代替不可能なものであるとした場合には、当該目的物の引き渡しができない場合、代替物の調達可能性を検討することなく、「契約をした目的を達する」(改正民法542条1項5号)ことができないという方向の認定につながり、解除が可能となりえます。

✔目的物を売買する目的(転売目的等)等

…売買の目的を転売目的と明記した場合で、当該目的物を引き渡せなかった等により売主が損害賠償責任を負う場合、売主は転売利益についても「予見すべきであった」(改正民法416条2項)という方向の認定につながり、かかる部分について損害賠償責任を負うことになりえます。

契約不適合責任(改正民法562条等参照)への対応

⑴「契約の内容」の明確化

改正民法では、現行民法の瑕疵担保責任は廃止され、目的物が契約内容から乖離していることに対する責任(契約不適合責任)が新たに規定されました。

このことから、目的物が適合すべき「契約の内容」(改正民法562条等参照)を明確にすることが有用であり、契約上要求される数量、種類、品質等を明確にすることが重要と考えられます。

契約書に記載することが困難な場合には、別紙仕様書によるという形で定めることも考えられます。

⑵「瑕疵」概念から「契約不適合」概念へ

実務上、現行民法に合わせて「瑕疵」という用語を用いて契約のひな型を作成している場合も多いと思われます。

この点、改正により、民法では「瑕疵」の用語が使われなくなったとしても、契約書において「瑕疵」という用語をそのまま使うことを禁止されるわけではありません。

もっとも、その場合には、解釈の違いから、民法上の「契約不適合」の場面と契約上の「瑕疵」の場面に齟齬が生じうることになり、統一的な処理を行うことができない可能性が出てくると考えられます。

そのため、契約書では、不用意に「瑕疵」概念を維持するのではなく、「瑕疵」の内容を明確にすることや「瑕疵」概念を維持し続けて良いかにつき検討することが必要です。

⑶ 売主による履行の追完の選択権の排除

改正民法では、引き渡された目的物が契約内容に適合しない場合、買主は、売主に対し、履行の追完を請求することができる一方で、売主は、買主に不相当な負担を課さない場合には、買主が請求した方法とは異なる方法での履行の追完(目的物の補修、代替物の引渡し又は不足分の引渡し)をすることができるとされています(改正民法562条1項)。

買主としては、自らが求めた方法とは違う方法で勝手に追完をされても困るということがありえます。例えば、買主は代替品を要求しているのに、売主が補修を選択してきたような場合あります。そこで、後述のとおり「買主の指定した方法による追完」と定め、売主による履行の追完方法の選択権をあらかじめ排除することが考えられます。

【条項例】

(契約不適合責任)

第◯条

1 買主は、種類、品質又は数量に関して、商品に本契約の内容に適合しない状態がある場合(以下「契約不適合」という)、買主の指定した方法による追完請求をすることができる。

⑷ 買主による代金減額請求権行使前の追完請求の排除

改正民法では、引き渡された目的物が契約内容に適合しない場合、一定の場合(売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した場合など)を除いては、買主は、まずは、売主に対して相当の期間を定めて履行の追完(目的物の補修、代替物の引渡し又は不足分の引渡し)を請求し、期間内に履行の追完がなされなかった場合に、初めて代金減額請求をすることができることになります(改正民法563条1項)。

しかしながら、買主としては目的物に小さな傷があるといった問題があったとしても自分で修理をすればよいという場合もあります。そのような場合には、売主に追完請求をして目的物の修理を待つ理由はなく、その分、修理代金に相当する金額を代金から減額してもらえば足りることになります。

そこで、このようなことに備え、買主の立場からは「買主は追完請求を行うことなく代金減額請求をすることができる」旨定めることが考えられます。

【条項例】

(契約不適合責任)

第◯条

1 (上記のとおり)

2 買主は、前項に規定する場合において、前項の追完請求を行うことなく、自らの選択により、売買代金の減額請求をすることができる。

 

当事務所でサポートできること

上述しましたとおり、民法改正を踏まえて契約書を見直さなかったことにより、以下の権利を行使又は行使されるにあたり、不利益を被るリスクがあります。

・契約の解除

・損害賠償請求

・契約不適合責任(目的物が契約内容から乖離していることに対する責任)の追及

・追完請求(目的物の補修、代替物の引渡し又は不足分の引渡しの請求)

このような民法改正による不利益を被らないためにも、企業において、契約書を見直す必要があります。

また、売買契約書につき改正により見直すべき事項は、以上の事項にとどまらないうえ、その他の分野(保証、賃貸等)についても改正の影響があるため、様々な分野の契約書を見直す必要があるなど、民法改正に対応した契約書の作成にあたっては、専門的知識を有していることを要します。

さらに、契約書の作成にあたっては、当事者の意向を踏まえて条項の表現や他の条項との整合性を検討する必要があり、弁護士に依頼することが望ましいといえます。

当事務所では、民法改正に対応した契約書の作成・チェック業務を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

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