労働時間に関する業種別における過去の重要判例

ビル管理会社

このような会社では、会社が管理を受託したビルに従業員が24時間連続勤務で配属され、仮眠室で仮眠時間中に警報または電話が鳴ったときは必要な対応をすることとされていることがあるかと思いますが、仮眠時間を実作業の有無にかかわらず労働時間として扱うべきであるか争われた事案があり、最高裁は以下のとおり、仮眠時間が労働時間にあたるものと判示しました。

そのため、仮眠時間において実作業がなかったとしても、労働時間にあたる可能性があるため、下記最高裁判決に従って検討する必要があります。

 

(最一小判平成14年2月28日民集56巻2号361頁)

労基法三二条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観釣に定まるものというべきである……本件仮眠時間についてみるに、前記事実関係によれば、上告人らは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。

したがって、上告人らは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めて被上告人の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

 

タクシー会社

タクシー運転手の客待ち時間(30分を超える部分)が労働時間に該当するかが争われた事案において、以下のとおり、労働時間にあたると判示されました。

そのため、タクシー会社においては、この裁判例を踏まえて、客待ち時間についても労働時間に該当するか検討する必要があります。

(大分地判平成23年11月30日労判1043号54頁)

原告らがタクシーに乗車して客待ち待機をしている時間は、これが30分を超えるものであっても、その時間は客待ち待機をしている時間であることに変わりはなく、被告の具体的指揮命令があれば、直ちに原告らはその命令に従わなければならず、また、原告らは労働の提供ができる状態にあったのであるから、30分を越える客待ち待機をしている時間が、被告の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であることは明らかといわざるを得ない。

 

小売業

労働基準法上の「管理監督者」にあたる場合には、労働時間・休憩・休日の規定は適用されませんので、残業代の支払いは必要ありません(労働基準法41条2号)。そして、小売業の店長について「管理監督者」と扱われているケースがよくありますが、ハンバーガー直営店の店長が「管理監督者」にあたるかが争われた事案では、「管理監督者」の判断基準について以下のとおり判示され、「管理監督者」であることが否定されました。

そのため、店長を管理監督者として扱うかについては、かかる判断基準を踏まえて考慮する必要があります。

(日本マクドナルド事件・東京地判平成20年1月28日労判953号10頁)

原告が管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。

 

当事務所でできること

会社としては休憩時間と考えていた時間が全て労働時間とみなされてしまった場合、その分の賃金を支払う必要があり、管理監督者性が否定された場合には、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払いが必要になるなど、会社においては多額の負担を強いられることとなります。

会社においては、このような負担を課せられないよう、事前に管理監督者性について検討しておくことが重要といえ、専門家に相談されることをおすすめします。当事務所では、労務問題を専門的に扱っておりますので、悩まれた際にはご相談ください。

 

 

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