飲食業における労働問題の特徴と対策

飲食業における労働環境の特質

飲食業の労働環境については、次のような特質があるといわれています。

  •  パート・アルバイトが多く離職率が高い

店舗で実際に調理や接客を行う従業員は、大半がパートやアルバイトである場合が多く、パート・アルバイトの存在なくして、飲食業は成り立たないのが実情です。このため、他の業種に比べて離職率が高いといわれています。

  •  休日が少なく、労働時間が長い

飲食業の場合、土日や祝日に営業する場合も多く、また、居酒屋等の業態によっては深夜に営業することもあります。このため、他の業種に比べて労働時間が長いといえます。

  •  店舗に配置される正社員は少なく、業務過多の場合が多い

多数の店舗を有するチェーン店では、正社員に店長等の肩書が与えられ、店舗の責任者として配置される場合が多いと言われています。ただ、配置される正社員の人数は少なく、そのため、業務過多に陥る場合が散見されます。

労務管理上の注意点

  •  パート・アルバイトの待遇

前述のとおり、飲食業では他の職種に比べて離職率が高いと言われています。その原因として、パート・アルバイト従業員の多くは、元々長期で働く意思がない場合が多いといえますが、長時間労働や休日の少なさといった待遇にも影響があると思われます。

パートやアルバイトで雇った従業員についても、労働基準法や労働契約法等の労働関係法規が適用され、これらの法律によって保護されます。

労働基準法は、労働時間を1日8時間、週40時間と規定しており、これを法定労働時間といいます。労働者に法定労働時間を超える労働(いわゆる時間外労働)をさせるためには、労働者の代表者との間で時間外労働に関する労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

また、労働者に時間外労働をさせた場合は、25パーセントの割増賃金を支払う必要があります。さらに、労働時間が深夜(午後11時から午前5時)に及ぶ場合は、25%の割増賃金を支払う必要があります。この結果、労働者が時間外労働として深夜労働に従事した場合は、50%(=時間外労働25%+深夜労働25%)の割増賃金を支払う必要があります。

有期雇用・パートタイム労働法が2020年4月1日に施行され(中小企業については2021年4月1日施行)、正社員とパート・アルバイトの間で、不合理な待遇差を設けることは許されなくなりました。両者に手当等で待遇差がある場合、合理性を有するかを検討し、有しない場合は、待遇差を解消するのが適切といえます。

  •  正社員の待遇・権限(管理監督者の範囲)

飲食業では、調理や接客は、主にパートやアルバイトが行い、管理業務は、正社員が行う場合が多いようです。そして、正社員には、「店長」等の役職が付与され、管理職手当が支給される一方、管理監督者として時間外手当や休日手当は支給されないという取り扱いがされる場合も多いです。

たしかに、労働基準法41条は、管理監督者(同条2号)には、時間外手当や休日手当を支給する必要がない旨規定しています。

しかし、判例における管理監督者の範囲は狭く、「店長」の肩書が付与されても、当然に管理監督者に該当するわけではありません。

法律上「管理監督者」とは、経営者と一体的な立場で業務を遂行する者をいうと解されています。具体的には、飲食業の店長の場合、①パートやアルバイトの採用、解雇、人事考課、残業を命じる権限等がある、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有する、③その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられる、といった要件を満たす必要があります。

飲食業における店舗の店長は、多くの場合、以上のような要件を満たさず、管理監督者と認められない場合が多いと思われます。

例えば、パートの採用に本社の決済が必要だったり、勤務時間が決められ、遅刻・早退などの場合は給与が減額されたり、管理職手当等を合わせても、時給換算すると、アルバイトや一般社員の給与とあまり変わらないなどの事情があれば、管理監督者に該当すると解することは困難でしょう。

飲食店の責任者が管理監督者に該当するかについて争われた判例としては、レストランビュッフェ事件(大阪地裁昭和61年7月30日。ファミリーレストランの店長の事案)、マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日。ファーストフード店の店長)などがありますが、いずれも店長は管理監督者に該当しないと判断されています。

 

弁護士に相談することの重要性

飲食業界では、十分な労務対策を行わずに、営業を行っているところも少なくないと思われます。しかし、このような状態を放置すると、紛争の原因となり、経営全体に悪影響を及ぼすおそれがあります。事前に労務対策を取ることは安定した経営のために必要不可欠です。このような理由から、将来の紛争の発生を防止するためにも、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

returnTOP写真