事業承継の失敗事例

事業承継の準備をしないとどうなってしまうのでしょうか。
ここでは事業承継の対策をしっかりと行わなかった場合の失敗事例を紹介します。

1 遺言を書かなかった場合の失敗例

事例1(株式の承継ができなかったことによる失敗例)

X社の経営者Aが遺言を書かずに,死亡したことで,Aが保有していたX社株の相続に関して,Aの相続人間で争いが発生した。相続人間ですぐに遺産分割協議が成立しなかったために,相続の対象となったX社株の議決権行使を後継者がコントロールできず,後継者が意図したとおりの会社経営が困難になってしまった。

事例1では,Aの遺言がないため,相続人間で株式の共有状態になります。株式の議決権行使は,共有持分権者の多数決で決めることが可能ですが,Aの後継者の思い通りの協議内容になるとは限りません。そうすると,Aの後継者としては,共有状態にある株式の議決権をコントロールできず,X社の経営が危うくなります。
この場合の対策として,経営者Aは,後継者に配慮し,議決権比率をよく検討し,それに沿った遺言を作成する必要があります。

事例2(貸金債権の承継ができなかったことによる失敗例)

X社の経営者Aが,自社に6000万円を貸し付けていた状態で,Aが遺言を書かずに死亡した。Aの相続人らは,相続したX社への貸金を請求した結果,X社は運転資金として利用していたAの貸金を返還せざるをえなくなり,X社の資金繰りがうまくいかなくなってしまった。

事例2では,貸金債権は,Aの相続人らがX社に対して法定相続分のとおりの債権を有することになります。そして,オーナーの会社に対する貸金は,利息や返済期限の定めのないことが通常ですが,期限の定めのない金銭消費貸借契約における貸金債務は催告後相当期間経過した時から遅滞になり,会社としては貸金の返還請求を無視するわけにはいきません。
金銭債権については先代オーナーの生前によく検討し,遺言により後継者に承継するような方法を用いるか,あらかじめ出資の手続を行い会社の資本金に振り替えておくことなどの対策をとっておく必要があります。

2 遺言を書いた場合の失敗例

事例3(遺言を自筆で書いたことによる失敗例)

X社の経営者Aが,後継者であるBにすべての財産を譲る旨の遺言を自筆で作成した。しかし,Aが死亡する直前に遺言を作成したこともあり,Aの相続人らが,この遺言は,認知症等により意思能力が欠けた状態で作成されたものだと主張し,BとAの相続人らで遺言の有効性について訴訟にまで発展した。

自筆証書遺言を作成すると,事例3のように,遺言能力が被相続人にないことを相続人に主張され,遺言無効を争われる可能性が高くなります。自筆証書遺言には,偽造変造のおそれが存在したり,遺言の文言について解釈に争いが生じることもあります。
遺言による事業承継をする場合には,まずは公正証書遺言を作成するなど,遺言無効になりにくいような対策をとる必要があります。

事例4(遺留分を意識せずに行った遺言による失敗例)

X社の経営者Aは,後継者BにX社の株式や事業用資産を譲渡する旨の公正証書遺言を作成し,死亡した。その後,Aの相続人らは,Bに対して,遺留分侵害額請求権を行使した。遺留分侵害額請求に備えていなかったBは,Aの相続人らに価格賠償ができず,一部のX社の株式や一部の事業用資産を手放さざるをえなくなった。その結果,BはX社の株式の保有率の低下や事業用資産の喪失により,会社経営が困難になってしまった。

兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分を有するため,公正証書遺言により遺言が有効になされたとしても,必ずしも遺言に記載されたとおりの権利関係にならない場合があります。そのため,遺留分対策をせずに公正証書遺言を作成したとしても,問題なく事業承継がなされたとは言い切れません。
遺留分対策としては,経営者が生前に後継者に株式等を贈与し,経営承継円滑化法による民法特例を利用し,または売買により株式等を後継者に譲渡するなどといった方法を含め様々な方法が考えられます。

以上のような失敗事例は,事業承継の際によく見られる事例となります。他にもここでは紹介していない失敗事例が多数存在しますので,法律の専門家である弁護士に相談せずに事業承継を行うことで,思わぬ落とし穴に落ちる可能性もあります。
弁護士に相談することで,自分達では気づくことが困難な事業承継に関するトラブルを未然に防ぐことができ,会社を後継者に円滑に承継させることができます。
事業承継でお悩みの経営者は,弊所までお気軽にお問い合わせください。

returnTOP写真