団体交渉における協議事項・内容

団体交渉の誠実交渉義務と協議事項の関係

使用者は、労働組合が申し入れた団体交渉については,誠実交渉義務があります(労働組合法7条2号が根拠となります)。この誠実交渉義務の内容は,組合の要求・主張の程度に応じて、回答・主張し、必要に応じて回答・主張の論拠・資料を示す等誠意をもって対応し、合意達成の可能性を模索する義務を意味します。そのため,交渉の席には着いたものの誠実に交渉せずに,この義務に違反したと認められる場合も,団体交渉の拒否として不当労働行為となると考えられます。

それでは,使用者に誠実交渉義務があることから,労働組合から申し入れられた交渉事項であればそのすべてについて交渉に応じる必要があるのでしょうか。

結論としては,労働組合から申し入れられた協議事項であってもその全てについて応じなければならないということではありません。応じる義務のある協議事項には一定の範囲があります。

そこで、団体交渉を申し入れられた場合、応じる義務のある協議事項について以下解説していきます。

 

団体交渉にあたって協議すべき事項

⑴  使用者が,団体交渉を行うことを労働組合法上義務づけられている事項を義務的団交事項といいます。この義務的団交事項は,組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものと考えられています(エス・ウント・エー事件,東京地判平成9年10月29日)。

具体的に「労働条件その他の待遇」にあてはまる事項としては,労働の報酬,労働時間,休息(休憩・休日・休暇),安全衛生,災害補償などが代表的なものです。また,人事における評価の基準や手続,または年俸制や職務等級制等、評価に大きく依存する賃金・人事制度における評価の基準・枠組みも,義務的団交事項にあたるとされています(日本アイ・ビー・エム事件参照,東京地判平成14年2月27日)。

⑵ 新機械の導入や,会社の組織の変更などといった経営・生産に関する事項であっても,労働条件や労働者の雇用そのものに影響がある場合は,義務的団交事項となると考えられます。

また,日本の民間企業では,個々の労働者に対する配転や解雇などといった個別人事や労働者個人の労働上の個別的権利問題も,団体交渉で処理されることが多いので,個別人事や個別的権利問題も義務的団交事項であると考えられます(日本鋼管事件―東京高判昭和57年10月7日)。

さらに団体交渉の手続やルール,労使協議手続,争議行為に関する手続やルールなども義務的団交事項です。

⑶ なお,義務的団交事項ではない協議事項について,使用者が任意で団体交渉に応じることに法律上何ら問題はありません。

 

団体交渉にあたっての誠実交渉義務の内容

労働組合は,使用者に対して,様々な要求や主張をし,資料の提出等を求めてきます。

誠実交渉義務は、使用者に、譲歩して労働組合と合意することまで義務づけるものではありません。双方が主張・説明を、これ以上交渉を重ねても進展が見込めないまで尽くした場合には、その時点で使用者が交渉を打ち切ることも認められます。

しかし,使用者が,団体交渉において,最初から全く譲歩をしないという交渉態度をとることや,または検討不足で十分な説明をしない場合などは,誠実交渉義務違反として,不当労働行為にあたる可能性があります。

また,使用者の資料の提示については,組合からの団体交渉における具体的な要求に関連しない資料開示の要求がある場合に,この要求に応じられない場合には,その理由を具体的に説明する義務を負いますが,具体的に説明をすれば,直ちに誠実交渉義務違反にはなりません。ただし、労働組合の具体的な要求に関連して、資料の提示が団体交渉において不可欠な場合には、資料を提示しなければ誠実交渉義務違反となる場合があります。

 

当事務所でできること

団体交渉にあたっては労働組合の要求を一方的に退けたり,不十分な説明をすると不当労働行為と評価される可能性があります。また,どのような場合に不当労働行為に該当するか等の法律判断について,裁判例も多くあることから,判断が難しく,法解釈が問題となるので、速やかに弁護士に相談していただくのが重要といえます。

当事務所では、団体交渉にあたっての協議事項や協議の内容についてのアドバイス業務や団体交渉に代理人として出席することも可能ですので、お気軽にご相談ください。

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