問題社員への対応とその注意点

問題社員の類型

どのような企業にとっても,次のような社員がいれば,問題社員として悩みの種になるのではないでしょうか。

まず,勤務態度が良くない従業員です。例えば,みだしなみがきちんとしていなかったり,遅刻・欠勤が多かったり,だらだらと長時間労働を行っている従業員などです。

また,能力が不足している従業員です。例えば,ミスが多かったり,業務水準や達成度の低い従業員です。

そして,ハラスメントを行う従業員も問題です。パワハラやセクハラを行う従業員がこれに当たります。

問題社員による企業への不利益

このような問題社員の言動によって,職場の雰囲気や秩序が損なわれることは,それ自体重大な不利益であるうえに,次のようなリスクがあります。

例えばまず,勤態不良や能力不足の従業員について言えば,このような従業員が業務上のミスを犯し,その結果,企業が,取引先から取引を断られたり,場合によっては債務不履行などの責任問題となって,取引先から損害賠償等の請求を受ける可能性があります。

また,ハラスメントを行う従業員について言えば,これを行った従業員自身が不法行為責任を負うだけでなく,企業も使用者責任を追及される可能性があり,パワハラやセクハラを受けた従業員から,企業が損害賠償等の請求を受ける可能性があります。

そして,このようなリスクを考えると,企業としては,問題社員を放っておくことはできず,これに対する対応が必要ですが,問題社員への対応を誤ると,意図した効果を実現できないうえに,逆に問題社員から付け入れられてしまうことにもなりかねません。

問題社員への対応

そこで,問題社員に対しては,しかるべき対応を慎重に行うべきですが,対応の基本的方針は,就業規則を整備すること,段階をふまえた慎重な対応をすること,記録を残すことです。

就業規則を整備すること

就業規則を整備しておくべきです。

例えば,問題社員に対しては,注意や警告,配転などを検討する場面がありますが,これらは業務命令に該当すると考えられます。業務命令は,労働契約締結にあたって通常想定できる事項,法律に根拠のある事項のほかは,就業規則に根拠規定が存在することが必要となります。

また,問題社員に対しては,懲戒処分として,戒告やけん責(いずれも将来を戒める処分ですが,けん責は始末書の提出も求める処分です),そして,懲戒解雇などを検討する場面がありますが,懲戒処分をするためには,就業規則等の根拠規定が必要です。

段階を踏まえた慎重な対応をすること

そのうえで,問題社員に対しては,段階をふまえた慎重な対応をすることです。

注意や警告をしたうえで,場合によっては懲戒処分をするということになりますが,その場合でも,戒告やけん責といった軽度の処分にとどめるのか,それとも懲戒解雇などの重い処分を行うのか,慎重に判断することが必要です。

また,解雇をしようとする場合でも,まずは配転などによる解雇回避措置をとったうえで,改善がみられなければ退職推奨を行うなどの対応を試みるのが妥当です。

記録を残すこと

そして,問題社員の言動を業務記録に記載して残したり,対応は書面で行うなど,いずれも記録を残しておくことが重要です。もし裁判になった場合には,これらの記録が証拠となります。

問題社員の類型に応じた注意点

勤務態度不良の従業員や能力不足の従業員について

これらの従業員に対する対応は,基本的に同様と思われます。つまり,面談などをしてその原因を確認し,これを記録に残したうえで,注意や警告を行うのであれば書面により行う,というのが妥当です。このような対応を繰り返しても改善しないようであれば,懲戒処分等も検討しなければなりません。

もっとも,みだしなみを注意するためには,その根拠として,就業規則においてみだしなみが定められており,その内容が合理的でなければならないと考えられる点に,留意しなければなりません。また,その内容が合理的であるかどうかは,業務の内容や(接客か単なるデスクワークか,また,調理など衛生的であることが特に求められる業務であるか),制限されるみだしなみの程度(制限の対象は服装か,髪形やひげなどか)を考慮して,判断されることになります。近時、ひげを剃るように指示された従業員が、これに従わなかったため不当な人事考課を受けたとして、裁判で慰謝料等を求めたところ、企業側に賠償を命ずる判決が下されました。

また,ミスが多かったり,業務水準や達成度の低い従業員については,その従業員の能力に適性のある業務がほかにある可能性もあるので,配転により異なる業務につかせてみることなども検討すべきです。

ハラスメントを起こす従業員について

このような従業員については,まずハラスメントの事実関係を確認することが重要です。関係者からの聞き取りなどをしたうえで,従業員からも事情聴取をして,事実関係を確認することになるでしょう。その際,これらの聞き取りの結果は,もちろん記録に残すべきです。録音などの客観的証拠があれば,それも保管しておきます。そのうえで,注意や警告,そして,懲戒処分等を検討することになります。

当事務所の解決事例

・ 問題社員にお困りの企業様のご相談に対し、当事務所から、いきなり解雇せずに退職推奨等の段階をふまえた対応をすすめた結果、このように対応した企業様が、その社員に合意により退職してもらうことができた事案。

・ 問題社員を解雇したところ、その社員から労働審判を提起されてしまったという企業様のご相談に対し、当事務所が企業様を代理して労働審判の対応等をした結果、金銭解決によりその社員に合意により退職してもらうことができた事案。

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